君(×に)のりたいっ!

著者/豊田 巧

第1話 【第一次部活統合計画】
 

花も完全に散り、青々とした葉だけが残る桜の木が校庭を囲むように並ぶ四月。

それは、高校三年の始業式の日の出来事だった。

「注目っ!」

春休みの延長でザワザワしていた講堂が一気に静かになる。

突然、すげぇ美人が舞台に現れ、俺の目は釘付けになってしまった。

その女の人は、漆黒の髪を後ろへ束ね、髪と同じ色のスーツを隙無く着込み、背筋をピンと伸ばして舞台中央の演台に向かって真っ直ぐに歩んだ。

カツンカツンと甲高いヒールの音が静まり返った講堂に響く。

俺はオーラとか得体の知れない物は嫌いだが、この人から出る雰囲気がこの場に静寂をもたらしたようだった。

そのあまりの精悍な姿にスーツが軍服のように見える。

その女の人は舞台の端に掲げられている校旗に向かって丁寧に一礼をしてから、クルッと前を向くと演台に両手をつき、俺達全員をすっと見回した。

いつもなら校長先生がそこに立ってもいつまでもうるさいのに、その女の人がまだ何もしゃべっていないうちから俺達は沈黙していた。

オーラじゃなくて……それだけのプレッシャーがこの人からは感じられるのだ。

「本日から当学園の理事長に就任した天草あまくさみすみだ!」

新しい理事長が一気に名乗るが、生徒からは驚きの声さえ生まれず、ただシーンとしている。

「学生は本来、勉強・運動・文化活動において高い成績を目指すのが本分のはずだ! 私は諸君らが充実した学生生活を送れるように、ここを素晴らしい学園とするためにやってきた!」

そして、高貴な笑みを浮かべた。

すごく厳しい人かと思ったが、その笑顔にほっと心が緩んだ。

……もしかして……話のわかる人なのかな?

みんなも困惑しているのか、講堂は静まり返っていた。

しかし、やがて一人二人と始まった拍手が、講堂全体へと広がっていく。

天草理事長が一言で大半の生徒の気持ちを掴んだ瞬間だった。

知らないうちに微笑んでいた俺も、どんどん大きくなる拍手の渦に加わる。

天草理事長がゆっくりと左手を挙げると、俺達は訓練されていたかのように拍手をやめた。

「諸君、私に対する多くの賛同をありがとう。では、最初の改革を発表する!」

改革?

バシンと大きな音をたてて天草理事長は両手を演台に打ちおろした。


「増えすぎた部活の統廃合を行う!」


 えっえ―――!!

と、俺は心の底から驚くが声が出ねぇ。

上がったり下がったりほっとしたりというショックを立て続けにくらうと、人間はみんなそうなるらしく、全員あ然としていた。

そして、計ったようにトドメの一撃!

「返事はどうした!」

天草理事長は右の拳を左から右へと振りきった。

すると、打合せで段取りが決まっていたかのように、

『はい!』

と、全校生徒が声を合わせて返事した。

それを見た天草理事長はニコリと微笑み、舞台から去って行った。

肩で風を切りながら颯爽と……そして優雅に。

「注目っ!」

続いて舞台に登場したのは自治会長の小野田おのだ心こころだった。

小野田は松ヶ丘高校三年生。生徒側の最高権力者といえる自治会長である。うちの学校は多くのことを生徒の自治に任せているから、国家で例えるなら、王女様程度の権力があると言っていい。

均整のとれた細い体に、いつもビシッとアイロンのかかった制服をきちんと着込み、『松ヶ丘のジャンヌ・ダルク』と呼ばれる冷徹な優等生黒髪美人。なぜみんなにそう呼ばれるのかというと、小野田はどんなイケメンにコクられても絶対に付き合わなかったからだ。

だから「小野田は男嫌い?」とよく噂されている。

そんな真面目だった小野田が、今はロングコートのような漆黒の制服に全身を包み、腕には真紅の腕章を輝かせ、ブーツをカツンカツンと鳴らして歩く。

げえっ!? どういうことだ?

小野田が演台に立つと、自治会スタッフが一糸乱れぬ動きでその横に並ぶ。

すぐに入口からも体育会の屈強な連中が、同じような黒い制服を着て駆け込んで来て、一般生徒全員を威圧するように周りを取り囲み始める。

どこで訓練してきたのか、行動に全くムダがない。

ロングコートの下に、何らかの装備を隠し持っているのだろうか。走るたびに体からはカチャカチャと金属音が響く。

やがて、体育会の連中が講堂の四辺を完全に取り囲むと、俺達一般生徒に向かって強烈なプレッシャーをかけてきた。

まだ何もされてはいないのに、俺達は自然と真ん中へ身を寄せ合うようにして集まる。

それを舞台上から見て納得した小野田が、細いマイクを掴み静かに話し始めた。

「天草理事長の御意志に従い、我々自治会は部活の統廃合を推進する」

もちろんそんなことを言われれば、俺も含めてみんなが『えっ―――!?』と一斉に声を上げ、

「どういうことだ!」「冗談じゃねぇぞ」「マジか!?」

と、口々にわめきたてる。

そんな罵声をしばらく黙って聞いていた小野田が、マイクに向かって叫んだ。


「うるさいぞ! 学校を食い荒らすハイエナどもめ!」


キィィィンというマイクのハウリング音がして、全員があ然として黙ってしまった。

講堂は一気に静まり返る。

「自治会長が理事長の言いなりっていうんだったらさ、こりゃどうしようもないよねぇ~」

横に並んでいた桜島さくらじま真ま央おは両手を首の後ろに組みながら言った。

「真央! そんなに簡単にあきらめるなよ!」

「そんなこと言ったってねぇ」

真央が周りを見回す。

そこには体育会の連中が、俺達を見張っている。

そんな沈黙の中、勇気ある……いや無謀な男子が叫んだ。

「そんなっ、横暴はっ――」

そいつが言えたのはそこまでだった。

あっという間に飛び出してきた体育会の連中に瞬時に取り押さえられ、講堂からとっとと運び去られて行った。

何があったのかは知らないが、生徒の味方だったはずの小野田は豹変し、天草理事長の手先となって俺達の前に現れたのだった。

「統合となる部については昼休み前に掲示板に貼り出す。また今後は活動内容のハッキリしない部については統合ではなく『廃止』とするからそのつもりで! 部活のやり方についての説明もあるので統合したそれぞれの部は、指定時間に自治会室へ出頭のこと。連絡は以上だ」

すると、恐る恐る数名の女子が静かに手を挙げた。

それは小野田の目に入っているのだろうが、まったく見えていないかのように、

「もちろんお前らからの質問・抗議は一切受けつけん!」

と、ピシャリと言い切りそのまま舞台から消えて行った。

小野田の動きと連動して黒い服の連中は、一糸乱れぬ動きで講堂からいなくなる。

高校生活三度目の春を迎えた俺の胸に不安がよぎる。

……どっ、どうなるんだ? 俺の高校生活?

 

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