1.「残っていたらどうなるのよ?」

「そしたら、鉄道で部費で行けたのに……。まぁ津山も俺の研究部に入らないとダメだけどな」

津山はフンッと鼻から息を抜いた。

「嫌よ! そんなテロ集団みたいな部活」

「そんなんじゃねぇよ! 純粋に屋代線を愛する平和な研究部だっ!」

「そっかぁ~、部活だったら行けたんだ。残念だね、ゆーくん」

真央はニコリと笑った。

「うわっ!?」

気がつくと突然俺の横に愛美さんがいた。

音もなくやってきたので、心底びっくりしたのだった。

愛美さんは俺と花音さんの間に入って、すっと足を折り曲げてそこへ膝をついた。

そして、小さな紙にサラサラと物凄いスピードで文字を書いていく。

そうして、数枚の紙の束を作ってから1枚目を花音さんの前に置く。

『花音さんはここを築城研究部にしたいんでしょ?』

「そりゃまぁ……もっかいやりたいなぁ」

愛美さんは次の紙を静かに置く。

『だったら、郷土史研究部のみんなにお城の良さを知ってもらったほうがいいんじゃない?』

「そっ、それはそやな」

さらに1枚。

『だけど、普通にお城を見に行こうと言っても、みんな付いて来てくれないでしょ?』

花音さんは周りを見回す。

「みんな別にお城なんて興味ないもんな」

『だったら、出雲大社にみんなで行けば?』

紙を置いた愛美さんはニコリと笑う。

「なんで出雲大社なん?」

『元おつまみ研究部の私は出雲そばを食べたいし、日高さんは出雲まで電車に乗れれば行くみたいだし、真央さんも出雲大社なら恋愛心理の研究になるみたいよ』

「せやかて、出雲大社は城ちゃうやん」

すると、愛美さんは最後の1枚をすっと置いた。

『すぐ近くには松江城があるじゃない』

「あっ、そうや! 山陰地方で唯一江戸時代に建てられた天守閣を残す松江城があったわ!」

すっ、すごい……。

愛美さんは最初から最後まで相手の反応を読み切って紙を用意していて、理屈をきっちり積み重ねて花音さんを導いたのだ。

いきなり「松江城があるからみんなで行けば」と言っても花音さんはテンション上がらなかったかもしれない。しかし、今は自分の築城研究部を復活させるため、みんなにお城の良さをわかってもらおうと思っているのだからやる気満々になっている。

「よっしゃ日高さん! 郷土史研究部の最初の活動は出雲大社参詣でええやん。旅費はうちが全部出したるわ」

「えっ!? いいのか? そこそこの金額になるぞ」

花音さんは目を閉じて胸に手をおく。

「それでみんな城が好きになって、全員で『城はおもろいから築城研究部やろう』って言ってくれたら安いもんやん」

完全に愛美さんの術中にハマって何かが見えなくなっている……。

愛美さんは花音さんに見えないようにして津山に1枚の紙を渡す。

それを0・2秒で読みとった津山はセリフを棒読みした。

「どんなお城なのかしら? 松江城って」

「津山も城に興味が出てきた!? じゃあ、みんなと一緒に行こうよ!」

「うん! 城っておもしろそうね」

単に出会いを求めているだけですよ……津山は。

冷静に考えればわかるような気がするが、熱病に浮かされたような花音さんには、そんな判断は全く出来ないようだった。すると、花音さんは自分の鞄から帯封を切っていない札束を取り出し、まるでトランプでも分けるようにして二つに分け、その一つをポンと俺に出した。

こっ、これは!?

「ごっ、50万円!?」

「そない驚かんでええやん。六人で島根まで行ったらそこそこの金額になるんやろ? 日高さんは部長やねんから、これでみんなのチケットと宿の手配お願いな」

「そりゃそうだけどさ……」

「ほなええやん。最後に領収書とお釣りを返してくれたらええから」

花音さんは気楽に手を振った。

もの凄いお金持ちなんだろうけど、花音さんは金銭感覚がすげぇーダメなことが判明。

すぐに六人の日程を調整し、出発は金曜日の夜に決定した。全員ケータイをガチンとぶつけあってメアドと番号を交換する。小さなことを報告だが、女子のアドレス俺史上最大数になった。

「日高! ちゃんと切符おさえてきなさいよ! でないと、私の出会いがパアになるんだから!」

すっかり誰がお金を出してくれたか忘れた津山は大声で俺に言う。

「わかってるよ。切符のことならまかせておけ」

すぐに立ち上がり入口まで行くと、愛美さんがやってきて手を振って見送ってくれた。

なんて可愛いんだぁ~。そんな体験はないが結婚したばかりの奥さんが朝送り出してくれる時のようにちょっとドキドキした感じがする。

「いっ、行ってきます」

その優しい目に心やられた俺は、アホなことを口走ってから部室を出た。

とりあえず寝台列車の予約をしなくてはいけないので、切符を買うために駅へと急ぐ。

出雲大社へ行くなら『サンライズ出雲』という寝台列車を利用する。サンライズ出雲は、週末人気の列車なのだが、たまたま団体のキャンセルが出たとかでシングルの寝台を六人分おさえることが出来た。JRの列車の切符販売は乗車日の1ヶ月前の同じ日の朝10時から行われる。

この瞬間に人気の列車は売り切れたりするのだが、出発日が近づいてくると意外にキャンセルが出るので、この頃にみどりの窓口へ行くとうまく切符がとれたりするのだ。

金曜日東京発22時、翌朝土曜日9時58分出雲市着、寝台特急サンライズ出雲。

……これで本当によかったのかな?

いつもならウキウキするところだが、6枚の切符をながめていると何だか嫌な予感しかしない。夕闇迫る駅から列車に乗って家へ戻ると、俺は大きなため息をついた。

次の日、学校で全員に切符を配り、集合は東京駅ということにした。

やがて出雲大社を目指す週末がやってくる。

---つづく---

【第2話予告】

突然持ち上がった「長野電鉄屋代線・断固存続研究部」廃止の危機に敢然と立ち向かう日高優斗。そして彼の周囲に集まる残念美少女集団と出雲へ泊まりがけの列車旅行へ!!

次回、第2話「サンライズ出雲(前編)」に出発進行っ!

日高優斗に真央の巨乳が迫る!


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