焦った俺は、挨拶代わりによく使われる言葉をとりあえず言う。

「さ、最近部活はどうだ?」

ほぼ全員が変な部活を行っている俺の学校では、まずはこれ。

「私の『恋愛心理だけ研究部』のこと?」

何だよそりゃ? そんな研究部だったっけ?

真央が何だか変な部活をやっているのは知っていたが、今日初めてちゃんと名前を聞いた。

「その研究部はどんな部活をやっているんだ?」

「れ・ん・あ・い」

真央は指を横に振りながら楽しそうに笑う。

なっ!? 何だ! その、真央がいればいかにもトラブリそうな部活は!?

「そういや……また男子部員が全員辞めて一人になったんだろ?」

「うん。一年生の男の子が二人いたんだけどね……」

俺には色々と思い当たるふしがあった。

「真央が何かしたんじゃないのか?」

俺が目を細めて言うと、意味深に真央は笑う。

「ううん。なぁ~にもしなかったよ」

真央が何もしないからと言ってトラブルにならない訳ではない……それはそれでな……。

しかし、当の真央に全く悪気がないから聞いてもわかるまい。

「じゃあまた一人で部活じゃねーか」

俺は笑って真央に言った。

「ゆーくんの所より私の方がましよ」

「どうしてだよ?」

「だって恋愛心理だけ研究部は三人だった所を……二人辞めて一人になったのよ。ゆーくんの長野なんとか研究部なんて2年間一人だったでしょ?」

「あがっ!?」

真央の指摘通り、我が長野電鉄屋代線・断固存続研究部は始まって以来一人のままだ。

「どうするの~? ゆーくん」

「何が『どうするの』なんだ?」

真央はきれいな栗色の髪に人差し指を入れて、クルンと一回転させて巻きつけた。

「だってアマちゃんが『部活の統合』するって言ってたじゃない」

「まず……そのアマちゃんって誰だ?」

「天草みすみ理事長だからコードネームは『アマちゃん』にするって、さっきグリーンベレー研究部から一斉メールがきてたわよ」

真央は胸ポケットからケータイをスルリと俺の目の前に出した。

「何だよそのまた変な研究部は!? そもそもグリーンベレーってどんな部活やってんだ?」

真央は二、三度人差し指を頬にあてながら思い出すように少し上を向く。

「確か……去年から川越かわごえ美空みそらって一年生の女子が一人でやっていたと思うけど」

「そこも一人しかいないのかよ?」

「そうね。うちの学校はほとんどそうだからね」

そんな訳で俺も真央も、その美空って子も一人部長。

「グリーンベレー研究部は去年の夏休み前まではかなり部員がいたみたいよ。ただ、夏休みの合宿が終わったらみんな辞めちゃったんだって」

一年生の女子を一人残して全員辞めたって……その夏に何があった!?

俺がそんなことを考えていると、真央が俺の目を見た。

「ゆーくんの長野なんとか研究部は、ぜ~ったい統合されちゃうよ」

「げっ!? マジかっ!」

そんなことは考えてもみなかった。

「みんな自分の部が無くなるかもって大騒ぎになっているのに……ゆーくんは余裕だね~」

真央は頬に手をあててフフッと笑う。

いやいやいや、俺、余裕ぶっこいてる場合じゃねぇよ! 研究部存亡の危機じゃんか!?

俺は屋代線に再び列車が走るその日まで、あの部を失う訳にはいかないのだ!

「理事長の横暴は許さないぞ! 長野電鉄屋代線・断固存続研究部を断固存続させるんだ!」

「ややこしいね」

俺の気持ちに反して、真央は気楽に笑っている。

「よし真央! 掲示板を確認しに行こうぜ!」

「ゆーくんがどうしても行くって言うならいいけどね」

……やる気ねぇな。

長い付き合いだから、真央が自分の研究部が無くなることにあまり興味を持ってないことはこの態度でわかる。

二人で廊下へ出て階段を降り、一階の廊下突き当たりにある自治会室前へと向かった。

「げぇっ!? 何だこりゃ?」

「そうなっているような気はしたのよねぇ」

真央は「ほらね」って顔で俺を見る。

ほぼ全校生徒が「自分の部はどうなってしまったのか!?」と掲示板に殺到し、合格発表以来の阿鼻叫喚の図がそこに生まれていた。

いや……合格発表なら喜ぶ人間がいるだろう。

しかし、この発表は全員に不合格を突きつけるようもので、ただ怒りと悲しみの表現が人それぞれ違っていたというだけだった。

俺と真央もそんな怒りと悲しみが渦巻く中へと押し入り、デカデカと「第一次部活統合計画」と書かれた紙を見る。

長野電鉄屋代線・断固存続研究部はどうなったんだ!?

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