職員玄関を出て、自転車置き場に向かう。カゴに大きな剣を載せて通勤してきたのは半日以上前のこと。
 正面玄関の佐倉に軽く手を振って正門を出た。少し先に朝、女子大生らと別れたビーチ入口の看板が申し訳程度のLEDで照らされていた。
「ん……?」
 砂浜に体育座りしている小柄な影が見えた。肩当てに剣のような物の柄。そんな格好してる人が、そう何人もいるわけがない。
「マホ……」
 俺は何かホッとしたような気持ちになっている自分に驚いた。同時に、ホッとしたのが驚くほどのことではないということも察していた。
 あの目が、どうしても忘れられそうになかった。騎士だか魔王だかがいる、ややこしそうな設定の世界に、ちょっと突っ込みを入れたくて仕方なかった。不思議な現象に関しても、素直にトリックを教えてもらいたいし。
 とにかく、興味を持ってしまったのだ。もう一度、会いたいって思っていた。一目ぼれとは、ちょっと違うと思うけど。
 なんてことを意識してしまうと、声をかけるのにも緊張する。
「何してるんですか、こんなところで」
 結局、最も月並みなことを言ってしまう。まあ、いきなり歯の浮くようなことを言うのも変だけど。再会にふさわしい台詞ってあるでしょうよ。そんなことを思って焦れているから、沈黙に耐えられず、さらに心にもない言葉でつなぐ。
「ビーチでの野宿は禁止されてるんですよ。この気温だから、酔っ払いが寝ちゃってたりはしますけどね」
「ここに泊るつもりはありません」
 マホは困ったような顔をして立ちあがり、スカートだか草擦りだかについた砂を払った。
「アナタを待っていたんです」
 ドキッとするようなことを言うね。フン。こんな小娘に気押されてたまるか。いや、見た目が小娘なだけかもしれない。
「もしかして、帰りの電車代とか、どこかに泊るお金とかが無いのかな?」
「無礼な! そんなことを言っているのではありません!」
かなり大げさに首を横に振る。格好以上に芝居がかったヤツだ。
「じゃ、どうしたの?」
「調べたところによりますと、落し物を拾っていただいた場合、一割程度のお礼をするというのが習わしだとか……」
「習わしって……」
 それも、あの籠手みたいのについてる薄い辞書に書いてあったのかなぁ。好奇心までムクムクと持ち上がってきてしまってる。
「習わしには従わせていただきます」
「いや、届け出たわけじゃないし、そもそも警官が拾った場合、放棄するのが通例でね」
「それでは私の気がすみません」
 こういう進展のなさそうな会話の時に、いいタイミングで鳴いてくれる虫がいる。
 腹の虫。
 向こうの飼ってる一匹も同調する。
「何か食いますか。俺、晩飯まだだし……」
 寮では晩飯を用意してるだろうが、まあ、今夜は許してもらおう。
「はい」
 マホは、やけに力のこもった返事を返してきた。お腹、すいてたのね。
「じゃ、すぐそこにファミレスみたいなのがあるんだけど、いいですかね。混んでないだろうし。メニューもいろいろあるから、嫌いな物あっても……」
「おまかせします。お礼も、そこで」
「それはいいんだけどさ。聞きたいこともあるし」
「え、もしかして……」
 パラパラと籠手の辞書をめくったマホが警戒のオーラをまとう。
「ショクシツですか?」
「今は職務時間じゃないから」
「良かった……」
 またフニャッと緊張を解く。
「なんだかせわしない人だねぇ……」
「そういう仕事ですから」
「騎士、だっけ……」
「一応、そうなんですけど……」
「ま、食べながらで……」
「はい!」
 どうにもつかみどころがないけれど、それが俺と彼女、ケンとマホの出会いだった……。

--つづく--

えっと、なんだっけ?君はいわゆる異世界からやってきた、こう言いたい訳だ。
 なにそれ?拾得物のお礼?魔砲?うわ、そんなものファミレスで出すんじゃない!
 あ、店員さん、俺、警察官だから、大丈夫だから、これ本物の拳銃じゃないからね?ね?

次回「ケンは振りかざすものだもの!(前編)」

 これは、どうしたもんかねぇ…


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