2 ショユウケン落としました?!
 
 陽射しに圧力を感じる。
 このあたりでは一年の大半が、そんな感じだ。
 常夏と言えば聞こえはいい。
 ま、早い話が異常気象ってことだ。
 今日も今日とて、珍しくもない真夏日。
 寮から職場までは海岸沿いを自転車で15分。
 8時30分が出勤時間だが、8時には着くように心がける。
 その方が少しは涼しいし、一応、公務員の心得ってやつでね。
 スポーツ刈りが伸び、少しカールしてきた毛先を気にしながら俺は愛車をこぐ。そろそろ床屋に行こうかな。

砂浜には早くも何組かの観光客が出ていた。
 ホテル前のプライベートビーチではボーイがサマーベッドを並べ直している。
 目の前で、これから泳ぎに行くらしい女性二人組が、歩道のガードレールを越えて、砂浜に降りようとしていた。
 職務上、当然、声をかける。
「あ、ちょっとちょっと、そこ入口じゃないよ」
 水着にパレオを巻いた格好でガードレールをまたぐかね……。
「入口は、この先。看板あるから。だいたい、そんなとこから降りたら危ないし」
「すみませ~ん」
 降りかけていた二人は、またガードレールを一またぎして歩道に戻る。パレオ外れちゃうし。
「あ……」
 見たわね的な目で、こっちを見る。
「大丈夫。水着で買い物したり、食事したりする方、普通にいらっしゃいますから」
 何が大丈夫だか分からないが、言い訳とかしてみる。
「そうですよね、観光地ですもの。ね、おまわりさん」
「あれ? 何で僕がおまわりさんって分かった?」
 通勤時は制服を着ていないんだけどね。何の変哲もない白の半袖シャツに紺のパンツ。実は制服と、それほど変わらなかったり。
「昨日、落し物届けに行った時、いらっしゃいましたよね」
 そう。
 俺の職場は網手市警察警務部会計課、遺失物係。
 片倉憲巡査24才であります。
「あ、それはご協力ありがとうございました。昨日は立て込んでたからなぁ。お相手したの私じゃなかったでしょ?」
 俺は自転車を降りて引きながら、女性らをビーチ入口まで先導する。こういうこともあるので時間に余裕を持って出勤するのは正しい。
「年配の男性でした。ちょっと髪の……」
「係長ですね。網手のブルース・ウィルス」
「ああ、映画俳優の。そう言われれば」
「婦警さん達も女優さんみたいな人ばかりでしたよ」
 外面はね……。
「どちらからいらっしゃいました? 大学生?」
「東京です」
「某女子大」
 ま、聞いたところで、どうなるわけでもなし。
「網手って初めて来たんですけど、いいところですね。外国みたい」
「昔は米軍幹部の保養地で、その後、警察官僚が私有化したりして、ちょっと近隣の県から隔絶されてたようでね。どこか浮世離れしてるとこがあって、ローカルルールが多いと言うかね」
「だから外国の方、多いんだ……」
「外国企業もボチボチ進出し始めてるのもあるでしょうな。最近だと、沖でレアメタルだか、メタンなんとかだかが見つかったとかで」
「どんどん開発されていくんでしょうね。そうなると、治安が悪くなっちゃったりするんですかね?」
「そのために我々がいるわけですから」
「あら、頼もしい」
 苦笑いする俺の顔には、落し物係ですけどねとハッキリ書かれていることだろう。それが読めたのか、彼女らは話題を変えた。
「おまわりさん、ビーチ以外に面白いとこって、どこかあります?」
「ホテルに水族館のポスターが貼ってなかった?」
「あ、貼ってあったかも」
「ああ、でも、あれは再来月オープンだったかなぁ。まだ建設中だったような……、アミティリウム。アミテとアクアリウム、なんでかけちゃったかな」
「水族館、見たかったなぁ」
「また来ればいいじゃない」
「山の方に遺跡みたいなのあるようですけど?」
 サラッとかわされた……。
「採石場ね。何代か前の市長がゴリ押しして作ったはいいんだけど、観光地には合わないし、さっき言ったレアメタルだかの方に人は流れるしで閉鎖されてます。危ないから近づかない方がいいですよ。流石に、あの辺は安全だとは言い難い」
 話しながら歩いているうちにビーチの入口に着いた。
「そこの立て看板のところから入るのが正しいから」
「ありがとうございました」
 女子大生コンビは丁寧に頭を下げると浜辺に向かって駆けだした。いい子たちだなぁ。
 呆けた顔を署の方向に向けると、背後でグサッと何かが刺さる音がした。
「今、後ろでイヤな音がしたよねぇ……」
 おそるおそる音のした方に目をやると、さっきまで無かったはずの、何やら大きなスコップ、あるいは剣のような物が砂に刺さっていた。
 断定できない物には、「のような物」を付ける。バール「のような物」とかね。これ警察の常識……かどうかは知らないけど。
「何だ、これ……」
 剣だとすれば柄の部分を握って砂から引き抜くと意外に軽い。抜いて改めて見ると、やはり剣と呼ぶのが一番近いかもしれない。ただし、リアルな中世風の剣ではなく、マンガチックなゲームのアイテムとかで出てきそうなタイプだ。
「小道具か何かか? 特に撮影の申請が出てたとかは聞いてないし。学生が勝手にやって忘れてった? 捨ててっちゃうには凝ってるじゃん。もったいないよなぁ」
 が、刃のあたりを見ると、これは何かを切る用には出来ていないと思われる。もっとも、これが本物の剣なら銃刀法的な何かに違反すると思われてややこしいのだけれど。
「とりあえず、拾得物として持って行くか。でも、このまま担いで行ったら危ない人に見られるなぁ……」
 覆う物が何かないかと見回すと、手ごろなブルーシートが半分砂に埋もれて転がっていた。端を掴んで引っ張りだそうと力を入れた時、山の方から地響きが聞こえた。
「採石場の方か? 石砕くのに発破でも使ったか? まだ朝だろうよ。苦情来るぞ、これ。やっぱり観光地には似合わないよなぁ」
 何はともあれ、拾った剣「のような物」をブルーシートで包み、自転車の買い物かごに載せて署に向かうことにした。

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