君が死ぬほど君が好き!

著者/番棚 葵

第1話 【命がけの告白】

--序章--

「……それで、話って?」
 夕陽に染まる体育館の裏で。
 少女の前で、一人の少年がうつむいたまま尋ねた。
 声がいつもより怪訝そうだな、と少女は考える。緊張を見抜かれたのかもしれない。
 実のところ、彼に対して何を話すべきなのか、その少女もよくはわかっていなかった。
 首の後ろで縛った髪を前に持ってきていじり、普段はつりがちな目尻を少し下げ、美しく結ばれた唇をへの字に曲げながら、困惑気味に自分に問いかける。

一体、何を話したらいい?

少年をメールでここに呼び出した際、何度も頭によぎった疑問である。頭が真っ白で、何も言葉が浮かんでこない。
 いや、言葉は浮かんでいる、ような気はする。それを口にするのが、怖いのだ。事実を確認するのが、恐ろしいのだ。武術で鍛錬を続けていた自分が、たった一言を放つのにかなりの勇気を必要としている。
 でも、これではらちがあかないから――少女は覚悟を決めると、口を開いた。
「蒼太、お前。さっき、教室でヒメ美と話していたな」
「う、うん……」
「その、教室には他に誰もいなくて、ヒメ美がすごく切実にお前の目を見ていた……あ。私は偶然通りかかって、廊下側の窓から見ていたんだ。覗こうと思ったわけじゃないんだが、人がまだ残ってる気配がするなって思って、つい見てしまった。ほ、本当だぞ」
 言いながら、段々と自分が何を話しているのかわからなくなる。
 いかん、一度落ち着け。
 少女は自分に言い聞かせると、深呼吸を何度かして気を落ち着けてから、蒼太と呼んだ少年の方を再び見つめた。
「お前たちに声をかけようとしたら、その……聞いたんだ。ヒメ美が、お前に『好きだ』って言ったのを。間違いないか?」
「……うん」
「そ、そうか……」
 蒼太がうなずくのを見て、少女は安堵した表情を浮かべた。
 青い顔をしながら。
 自分が変な勘違いをしていないと知ったのはいいが、それが絶望への第一歩だと悟ったのである。
 彼女はめまいを覚えながらも、極力顔は笑っていようとつとめた。
「よ、良かったな。告白されたんだ……返事はもちろん、イエスだろう?」
「……………………」
「親友の私が保証する。ヒメ美はいい奴だ。それは中学から一緒のお前も知っているだろう。そうか、そうか、そうなるんじゃないかと思っていたが、とうとう……」
 つぶやいているうちに、少女は「あれ」と首を傾げた。
 人形のような、美しく整った顔。その中でも、彼女の堅苦しいしゃべり方とはミスマッチな、大きくつぶらな瞳の下に、滴が流れている。
 やだ、と少女は思った。何で、こんなことに――理由はわかっている。
 この時、彼女はどうして自分が蒼太をここに呼び出したのか、改めてわかった。
 自分は決着をつける気なのだ。ずっと、この少年に対して抱いてきた、ある気持ちに。
 彼女は気がつけば、大声で叫んでいた。
「……や、やっぱりダメだ! 蒼太、こんなことは勝手だって、よくわかってる! でも、私はお前に、ヒメ美と付き合って欲しくない! だって、お前が誰かと付き合ってしまったら、私はもう、笑っていられる自信がなくなってしまう!」
「……え?」
「私は……私はな、蒼太。ずっとお前のことが……ヒメ美なんかより、ずっと昔から……その……」
 戸惑うような蒼太の前で、少女は目をぎゅっと閉じると、必死に声を絞り出した。

「……す、好きだったんだ!」

言った。言ってしまった。
 長年言えなかったことを言えたという安堵と同時に、後悔が襲いかかってくる。
(ヒメ美が先に告白しているのに、自分は何をしているんだ)
 よりにもよって、この学内の風紀を守る風紀委員でもあり、不正行為は許せないと肩肘を張ってきた自分が、だ。親友が想いを告げた相手に、後から告白しているときた。
 自己嫌悪と――それでも少しばかりの達成感を感じながら、彼女は上目遣いで蒼太の方を見た。
 彼は、ぽかんとした表情で目を瞬かせていたが、やがて、
「……流歌」
 と少女の名前を呼んだ。
「オレは……その、常磐の告白に、応えることはしない」
「え?」
 流歌と呼ばれた少女は、期待に染めた顔を上げた。
 常磐とは、ヒメ美の名字だからだ。つまり、蒼太は彼女の告白に応じるつもりはないということで、今まで暗かった気持ちが一気に晴れ上がり――すぐに、心の中で猛省をする。
 これでは、親友がフラれたことを喜んでいるようではないか。
 だが、それでも自分は蒼太のことが好きで――――こんな具合に複雑な胸中と向き合っていると、蒼太は今度は少し声のトーンを低くして言った。
「というか、わかっているんだよ……お前だって、『そう』なんだろう?」
「……はい?」
 流歌は、きょとん、とうめいた。
 彼が何を言っているのか、わからないのだ。
 だが、次の瞬間。蒼太はしみじみと、息を吐きながらとんでもないことをつぶやいた。

「これ、『校内でもっとも冴えなくて騙されやすそうな男に告白してこい』っていう罰ゲームなんだろう?」
「はぁ?」

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