流歌は、冷や汗を隠せないまま、ヒメ美を見つめた。
「ヒメ美、お前どうした?」
 意気消沈の後、学校からの帰路をたどっていた彼女は、偶然にもヒメ美が蒼太へ凶行を働いている場面に出くわした。
 出てくるのが遅れたのは、呆気にとられたからである。寸前で、間に合ったようだが。
 しかし、このヒメ美の力が、また強い。
 彼女と一度冗談で腕相撲をやったことがあるが、「んー!」とうなっても自分の腕を動かすことができないその姿に、同性ながら「可愛い」と思ったことがあるくらいなのに。
 今のヒメ美は全身から流れ出ているスパークとも相まって、まるで昔の映画に出てくるサイボーグのような強靱さを感じさせた。
 もっともこの紫電は、実際の電流ではないらしく、触れても何の影響もないのだが。
(というか、これは何なんだ。どうしてヒメ美の体からこんな電流のようなものが?)
 疑問が胸をつくが、流歌にはわからない。
 と、その凶暴化したヒメ美は、やがて流歌をにらみつけると、
「てめぇ……邪魔をするな!」
 裏拳で殴ろうとした。
 力では対処できないと悟った流歌は、一度羽交い締めを解くと、体を沈み込ませて拳をよけた。すかさず足払いをかける。
「うわっ?」
 バランスを崩され、ヒメ美はうつぶせに転倒した。
 後は、背に座れば彼女の動きを少しは封じることができるはずだ。
 ヒメ美の力が、自分の体重を軽々と持ち上げるまでパワーアップしていなければ、だが。
 しかし、その心配は必要なかった。
 いきなり、殺意が霧散したのである。

「……あれ、流歌ちゃん?」
「え……?」

倒れた体勢のままで、ヒメ美は、きょとん、と流歌を見つめた。
 流歌は、恐る恐る彼女に近づく。が、完全に敵意は消えているらしい。全身を覆っていた紫電も、いつの間にか消えている。
 それどころか、ヒメ美は立ち上がって、きょろきょろと周りを見回すと、こんなことを言い始めた。
「わたし、今まで何していたんだろ……そういえば蒼太くんは? ここにいなかった?」
「はぁ?」
 すっかり面食らってしまい、流歌は間の抜けた声を出すのであった。

蒼太はよろよろと、人気のまったくない通りを歩いていた。
 家に向かっているのだが、それで助かるのだろうか。
 そんな考えが頭の隅にちらつく。
 やがて、それすらも意味がなくなった。
 彼はその場でばったりと倒れたからだ。意識が闇に沈み込む。
(ああ、死ぬな、オレ……)
 そう思った、その時である。
 声が聞こえた。
『助かりたいか?』
(よし、わかった! 魂でも何でもくれてやる! だから、だからオレを助けてくれ!)
『……いや、まだ何も言ってないんだが。そんな安請け合いしていいのか? ていうか、魂が欲しいとか別に言ってないし』
 必死すぎるだろ。声は呆れたように響くと、言葉を続けた。
『俺は今、お前の中にいる。お前に力を貸し、その体を修復することも可能だ』
(本当に? じゃぁ、持病の胃潰瘍とか、過敏性腸症候群とか、骨粗鬆症とかも治るのか?)
『そこまでは面倒みきれん……というか、持病多いな、お前。計画がうまくいくか、心配になってきたぞ』
 不安げに響いてから、声の気配はすっと彼に近づいた。
『とにかく、生きるために力を貸してほしければ、こちらにも力を貸して欲しい。どうだ、俺と契約しないか?』
(いや待て、お前何者なんだ?)
『……普通はそれを先に訊くだろ? 何で今になって尋ねるんだよ? ああ、もう何か段取りがグダグダになってきたじゃないか。とにかく、契約しろ。そうでないと、お前本当に死ぬ』
(……わかった。契約するには、どうすればいいんだ?)
『簡単だ、契約したいと強く念じればいい。そうすれば、自動的に契約される』
(……………………)
『おい、何だこの念は。「最新のポータブルゲーム機が欲しい」とか念じられても、俺は知らんぞ』
(いや、叶うかなって、つい、試してしまった)
『死にかけているのに、ずいぶんと余裕な奴だな。俺にそんな力はないっての。いいから早く念じろ…………よし、それでいい。後は、俺がやっておく。お前は少し寝ていろ』
 そして、蒼太の意識は完全に途絶える。
 彼の左手に、焼けるような赤い光が宿り始めたのは、実にそのすぐ後であった。

--つづく--

昨日の騒ぎは一体なんだったのだ? それにヒメ美は本気だっただと?
 さらに、他の女子も全員本気!?

蒼太がモテている…だと!そんなバカな!

いやいやいやいや、そんなバカな、落ち着け私。
 よし、素数を数えるんだ私……1、3、5…

次回「狙われた少年(前編)」

ちょっとまてぇ!撤回してしまった私の告白は一体どうすればいいんだ!?


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