バカと戦車で守ってみる!

著者/馬場 卓也

第1話 【海を見つめる少女】

--プロローグ--

――2×××年、夏――

『巨大生物群、太平洋を席巻?』

まるで前時代の安いSF映画のタイトルのような、大袈裟過ぎる見出しが、大真面目に大新聞の一面を飾った。それも一社だけではなく、各社がこぞってこれに似た見出しをあげた。いかがわしい見出しなら他の追随を許さないタブロイド誌は、自分たちのお株を大手に奪われた形になり、負けじと『世界滅亡の危機?』など、さらに不安をあおるような見出しとおどろおどろしい合成写真でこれに対抗した。

『未知の巨大生物による、侵略行為か?』

そんなばかげた話をにわかに信じられるものではない。一部では『大新聞がそんな絵空事を書くとは!』と猛烈な批判が出た。
 しかし、太平洋上において転覆した巨大タンカーに群がる生物群を捉えた、ヘリからの空撮映像がプライムタイムのニュースで流されるや、人々はそれがホラ話でもなんでもなく、歴然たる事実だったということを認めざるをえなかった。

その日を境にテレビでは連日連夜、巨大生物に関するニュースや中継、放送枠を大幅変更しての特別番組を組んで、人々を更に不安の奈落に落としこんでいった。

『恐竜の生き残り?』

『実在した怪獣!』

今まで空想の産物としか考えられなかった未知の巨大生物が、否、怪獣、巨大怪獣が実在したのだ!

事の発端は、それより数日前に遡る。
 マーシャル諸島近海北緯7・19、東経167度地点におけるメタンハイドレート採掘作業中に起こった。
 新時代の化石燃料といわれるメタンハイドレートは、年々深刻化するエネルギー問題を打開するものとして各国でその採掘に力が注がれていた。
 その日、深海1000メートル以上にも達するボーリング作業中、アメリカ国籍の掘削船をはじめとする作業チームが何ものかによって襲われ、救難信号を発したまま、通信が途絶えた。

数時間後、救助隊が向かった時にはすでに手遅れだった。海面に浮かぶ無数の船の破片と燃料油、そして誰もいない救命ボート……。
 さらには転覆した掘削船につけられた、まるで巨大な爪によって引掻かれたような裂傷と、掘削用のドリルシャフトがあたかも巨人にもてあそばれたかのように、ぐにゃりと曲げられていたのが、事の異常さを物語っていた。

わずかに生き残った作業員たちは皆一様に、ただひたすら『怪物……』とうわごとを呟くばかりで、何が起こったのか皆目見当がつかない。

その日の天候から、大時化や高波の可能性は低く、さらには海底火山の噴火、某国の陰謀などの説が上げられたが、どれも決め手に欠けるものばかりだった。

しかし、そんな人間たちの思惑をあざ笑うかのように、犯人はいともあっさりと洋上にその禍々しい姿を見せた。
 人知を遥かに超えるものたちの姿を、事故調査中のアメリカ沿岸警備隊と、報道用のヘリコプターがはっきりと映像に記録、そして全世界に発信したのだ。

 それらはかつての、ネッシーや、大海蛇などの未確認生物のように、こそこそとその体の一部を目撃者に披露するような、出し惜しみなどをすることもなく実に堂々とした態度で、大勢の人が見守る中、はっきりと、その首から上を蒼海に現したのだった。

太く長い首、そして頭頂部から背面にかけて硬質の鎧状の甲羅で包まれた姿……。

セイウチの変種、クジラの新種、恐竜の生き残り……。既知のどの生物にも当てはまらない姿のそれらは、お披露目が終わるや調査チームの船舶をその巨大なヒレ状の前肢で一掃し、巡視船の機銃掃射をものともせずに、我々こそが大海の覇者とばかりに雄たけびを太平洋上に轟かせたのだった。

『バカな?』
 誰もがそう思った。しかし、フィクションの出来事ではない、れっきとした事実を人類は受け止めざるを得なかった。

さらに恐るべきことに、それは一頭だけではなかった。調査船から送られた画像の中には、不鮮明ながらも、同種類の生物が数頭、その巨大な鎌首を海面からもたげている様子が映し出されていたのだ。

アメリカはもとより各国の名だたる生物学者はこれの正体の究明に急いだ。メタンハイドレート採掘により、住処を追い出された群れが、人類に牙を向いた……。それこそまるで、一昔前のSF映画の筋書きのようだったが、その意見には誰もが頷くところだった。そしてそれらの作品と同じく、その正体となると、誰も何も言えない。

ただ、日本の海洋生物学者、能美カズヒサが冗談で言った『爬虫類でも、魚類でも、哺乳類でもない、強いて言うなら、怪獣類』の言葉に、誰もが納得せざるを得なかった。

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