バカと戦車で守ってみる!

著者/馬場 卓也

第2話 【海を見つめる少女、もう一人。そして戦車(前編)】

「うーん……」
 と唸りながら、ナミはいちごカキ氷にスプーンを突き立て、シャリシャリとかき回す。ここ数日、レイクの表情がなんだか浮かないのが、気になっていた。
「レイク、どうしたのかな?」
 いつも明るく、でたらめな日本語でクラスの注目を集める存在だったのに、最近は頬杖ついて、椅子に座ってじっとしている姿をよく見かける。
 その日も『急いでいるから』と、パン屋をキャンセルしていた。
「レイクさん、今日もですか? 最近多いですよね」
 心配そうなハルミに、ナミは頷いた。

 レイクがそうなった原因はあの転校生だな、とナミは思っていた。

同じ外国人、無防備なまでにダイナマイトバディを披露するレイクと正反対に、どこか清楚でミステリアスな影があるカーラ。軍服っぽい制服を着ていなければ図書館が似合いそうな雰囲気のカーラに、太陽の下が似合いそうなレイク。

「まあ、人気なんてそう長続きしないって事よねー。まるでタイプが違うから、物珍しさにみんな、特に男子連中が注目しているというか」
 カキ氷をシャクシャクやりながら、ナミはハルミにそう言った。
「そうでしょうか……ううん、違うと思いますよ」
 レモン味を口に運び、ハルミが明言する。
「じゃあ、何?」
「カーラさんに人気取られたんじゃなくって、なんだか警戒している感じに見えますけど……あくまでも私の見解ですよ」
「……言われてみれば……。そういや……」
 言われてみれば、ナミには、思い当たる節があった。

ある日の昼休憩、カーラの周りには、いつものように男子を中心に人の輪が出来、取り囲んでいた。
 そんな中で、カーラは表情1つ変えず、騒がしい周りの質問に静かに答えていた。
 その様子を、レイクは自分の席からじっと見ていた。そして時折、珍しく何かをメモにとっていた。

「カーラの行動をチェックしているように見えたけど……後で聞いても何も教えてくれなかった。それに、よくカーラの後をつけるようなこともあったかな」
「何をメモってたんでしょうか。そうなると、逆にレイクさんが怪しい人みたい」
「だよね、今度ちゃんと聞いてみようかな」

「あれえ、今日もあのおっぱい大きい外人さんは一緒じゃないんだね?」
 と、パン屋のオバちゃん――といっても、県外に孫が三人いるおばあちゃんだが――もそんなレイクを心配するように、顔を出した。
「基地の子だから……あの子がいないってことは、また戦争でも起こるのかね」
 オバちゃんは、高台の国連軍基地を見て、呟くように言った。
「それはないよ、オバちゃん」
 ナミが首を振る。
「でもねえ、昨日も兵隊さんが来て『お酒ください』って来たよ。あれは戦争の前に景気付けに一杯やるからじゃないかね」
「ないないない……と思う」
 今度はハルミも一緒になって首を振った。

確かに、プテリギオン目撃報告の後、明らかに軍関係者らしいカーラが転校してくるのはタイミングがよすぎるし、素人目にも軍内でなんらかのアクションがあることは容易に想像できた。

「同じ基地に住んでいるから、私らの知らないこともあるんだろうな……」
 ナミは、カキ氷を平らげそう言うと、同意するように、ハルミがこくん、と頷いた。
 少し急いで口に入れたので、後頭部がキン、と響いた。

チャールズは定時にやってくるヒューゴの報告を聞きながら、横目でちらちらと壁際を見ていた。
 その視線の先には、小さな木工の戸棚があった。ヒューゴが言うところの『隠し戸棚風ホームバー』だ。
 もちろん、酒瓶も十分なぐらい並んでおり、嫌みったらしくない、落ち着いたチョイスである。
 冗談で言ったはずなのに、自分が不在の間にサプライズ的に設置するとは……全く、目の前にいる優男はとんだスーパーマンだ、とチャールズは思った。
「……この上は、さらに探査範囲を広げる事案に各国合意したので、空と海、さらには海中からの調査を……我が軍からは……、聞いてますか、将軍?」
 分かった、分かった、とばかりにチャールズは手を振った。
「毎日ご苦労だな。国連軍あげての鬼ごっこに参加しろ、って事だろ?」
「まあ、そうですね。噛み砕くと、そんな感じですか。なお、海中はロシア軍を中心に行うとの事です」
「では、我々も足を引っ張らないようについていってくれ。それと」
「はい?」
「こいつはいいな。お前がそろえてくれた中で、これが一番気に入ったよ」
 と、チャールズはデスク上に置いていたカップ酒を指差す。
「はあ。これは最もリーズナブルで、庶民的な人気で、ロングセラーになっている日本の酒ですよ。お口にあったのなら、光栄です」
「うん、お前がシャレでこれを入れてくれたのは分かるが、実に飲みやすい。就寝前に引っ掛けると仕事を忘れて、よく眠れる」
「買った甲斐があります。少し毛色の変わったものをと思い、町で購入しました。では、追加を手配しておきます」
「すまないが、頼む。それと……いつから基地内にガールスカウトのキャンプができたんだ? 昨日食堂で、兵隊ごっこのお嬢ちゃんを見かけたぞ。責任者見つけて、ここは遊園地じゃないってきつく言い聞かせることだ」
「ガールスカウト? あぁ、フラウパンツゥアーのことですか」
「フラウ……なんだ?」
「少女戦車隊、少女戦闘団とでも申しましょうか。数日前からドイツ軍が呼び寄せたんですよ。沿岸警備が主な目的、と聞いてますが」
「お嬢ちゃんが戦車? 乗るのか、作るのか? 見るだけか?」
「いいえ、本物の操縦、及び実戦です。ああ見えて、かなりの実績があるとか」
「はあ? ドイツにゃタマのついた男がいないのか? それとも女にタマがついているのか?」
 そう言ってから、チャールズはカップ酒のふたをカキュン、と開けた。
「お嬢ちゃんの集団が戦車か……認めたくないな。それだけいるならいっそ歌って踊って若い連中の士気を上げてくれりゃいいんだ」
「慰問専用に、それ担当の部署もあるそうですね」
「むっうう、全くあのビール腹どもめ! 何考えてるんだ!」
 冗談で言ったつもりが存在するとは……チャールズは思わず、カップを落としそうになるのをすんでのところで止め、そして酒を一気に飲み干した。

「あれぇええ?」
 いつものように朝の日課で海に来たナミは、思わず変な声を出し、前のめりにこけそうに……なるのをぐっと踏ん張った。

先客がいる。それも転校生のカーラ。

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