「で、さっき何か言ってなかった? 『殺す』とか物騒なこと」
「あぁ、アレのことで、レイクとちょっと……」
「アレというのは、あの怪獣のことで。お二人はいつもそれの処遇について語り合う、というか論じ合う……いいえ、言い争ってばかりなんです」
「ははあ、そういうこと……レイクさんは抹殺主義者なのね?」
 横を向いたレイクがうん、と頷く。
「わたしは……保護した方がいいと思うの」
 思わず、レイクはカーラを見た。相変わらずの涼しげな表情だ。
「な……何言ってんの?」
「でしょでしょ、そうでしょ、やっぱりなんだかカーラとは気が合いそうだな」
 嬉しそうに、ナミは立ち上がり、カーラの手をがっちりと掴んだ。
「やっと私の意見に同意してくれる人間がいたよ!」
「勘違いしないで、ナミ。もしも、生き残りがいて、それが最後の一頭だったらね」
 やんわりと、カーラが手を離す。
「それでもいいよぉ、いやあ、嬉しいなー」
 はしゃぐナミと対照的に、レイクは横を向いて、黙々とカキ氷を頬張っている。
「嬉しいからカキ氷おごるよ、シロップ何がいい?」
「いいえ。悪いけど、急ぐので」
 さっと手を上げると、カーラは町並みをチェックするようにきょろきょろとしながら、基地の方角へと歩いて行った。
「いやーやっぱり海好き同士、気が合うわ、ね、レイ……ク」
 むすっとした表情で、レイクは次々とカキ氷を口に入れている。
「あー、いたたた、へディックがキンキンするわ」
「『頭痛がキンキンする』ですね」
 そっとハルミが補足する。
「レイク、どう、カーラは?」
「どうって……ホワット?」
 さっきからレイクはどこかカーラと距離を置いているように、ナミには見えた。
「見た目クールそうだけど、結構いい感じだよ、カーラ。なんといっても海好きだし」
「……リアルにそう思ってるの、ナミ?」
「え? というか、何であんたはカーラを避けるのか、そっちの方が気になるよ」
「避けてるわけじゃない……警戒してるのよ、彼女に」
「警戒?」
「そ、警戒。なんだか引っ掛かるのよ、彼女」
「そうかなー。クラスでたった一人の外人枠を取られてやっかんでるのかと思った」
「そんな些細なこと、ノーよ。じゃあ、教えてあげる」
 いつもと違う、落ち着いたトーンで、レイクは食べ終わったカキ氷のカップを足元に置いた。
「今、基地内でスパイの噂があるの」
「スパイ?」
「スパイってあの、サイレンサー付きの拳銃持ってたり、秘密兵器持ってたりするアレですか?」
 ハルミが素っ頓狂な声を上げる。
「うーん、少し、いやかなり違うかな。何を探ってるのか、ママも詳しいこと言わなかったけれど、各国できな臭い動きがあるってのは確かね。……仲良くしてるようだけど、水面下で探り合ってるみたいな状況よ。だから基地内で暮らす私も、下手に探られないように距離を置いてた、というわけ」
「そうか、そんな理由があったのね……考えすぎじゃないの?」
「は? これだけ言っててアンダスタンしてないのあんた? よっぽどブレインがクラッシュしてんじゃないの?」
「『理解してない』ってことですか。それよりレイクさん、真面目な話する時は英語混じらないんですね、不思議」

それから、店のシャッターが下りてからもナミとレイクの間で『カーラはスパイか否か論争』が延々続けられた。
 もちろん、いつものように二人に挟まれるようにして、ハルミが仲裁をしていたが止めることはできなかった。

その日から、海で会うことはなかったが、代わりにカーラを町でよく見かけるようになった。
 カーラは散歩しているようにも、町をスケッチしているようにも見えた。
 いずれにしても、この町を気に入っているのではないか? とナミには思えた。
 その都度、ナミは声をかけるのだが、カーラは適当に軽く挨拶をするだけで、あまり関わる様子はない。
 そんなよそよそしい態度も、レイクにしてみれば『怪しい』のだった。

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