バカと戦車で守ってみる!

著者/馬場 卓也

第3話 【海を見つめる少女、もう一人。そして戦車(後編)】

「まさか……プテリギオン?」
 携帯を覗き込んだカーラが呟く。
「違う……気がする」
「どれどれ……あぁ、もうこれじゃウォッチできないよ!」
 ぐいい、とレイクも無理やりに覗こうとするので、三人は頭をつき合わせたような格好になった。
「カネミツ、もっと大きいのないの?」
「無理言うな!」

そうこうしているうちに、画面はその直前に撮影された映像に切り替わった。
 波打ち際に立てられた小さなステージに、無名の漫才師がネタを披露している。そばにある電光掲示板に数字が出ると、ステージの床が抜け、漫才師が落ちる仕掛けになっているようだ。

「なるほど。観客が出した数字が低いと落とされるのね。くだらないわ、全く」
 カーラが呟く。
 次の芸人も海に落ち、そして次へ……芸人としては高得点をあげステージに残るよりも海に落ちたほうが『おいしい』のだろう。若い芸人たちは、お寒い芸を披露し、次々に海へ落とされていく。

「なかなかサクセスしないねえ」
「いや、そういうの見てるんじゃないから」
 そして画面には長身と背の低い、凸凹コンビが映る。
「今度こそ、いいポイント出してね」
「だから、ネタを見てるんじゃないから」

凸凹コンビの売りはしゃべくり漫才だった。観客からもどっと笑いが巻き起こっているのが、動きで分かる。
 そしてネタが終わり、得点は……満点だった。
 司会者が小さなステージに上がり、二人に労いの言葉をかける。すると長身の男が不満そうに司会者に食って掛かり、最後に背の低い方を抱え、海へ叩き落した。

「あーあ」
「せっかくハイスコア出したのに」
「彼らにとってはどんな手段を使ってでも観客を笑わせたいのよ、賛辞の言葉なんか二の次よ。で、この番組がどうだっていうの?」

カメラは海面から顔を出し、アップアップしている漫才師の姿を捉えている。それほど深くないのだが、漫才師は溺れそうに必死にもがいてる。そして、その姿が海中に没した。

「自分の背の低さを、浅瀬で溺れることでアピールして笑わそうとしているのね。で、これのどこが……」
 冷静に分析するカーラの顔色が変わった。
 それと同時に、レイクも、ナミも画面に釘付けになった。

再び顔を出した漫才師は必死に助けを求めている。
『助けて、助けて!』
 必死の声が、携帯からかすかに聞こえる。
 はじめ、それもネタだと思い誰も笑って助けようとしない。
 背の低い漫才師はジャブジャブと水をかき、必死にステージに上がろうとしている、その必死な形相に、相方の長身が手を差し伸べようとした。
 水から上がった方が、何かを背負っている。
 黒い、自分の身長ほどもあるリュック。
 それもまた演出かと思い、みんな笑っている。
 その異変にはじめて気付いたのは長身の相方の方だった。掴んだ手を思わず払いのけ、後退ると悲鳴を上げた。

『ムシ、ムシー!』

その声に反応したように、黒いリュックからにょきり、と一対の脚が伸びた。続いてその下からモゾモゾと無数の脚が……。そこで画面はスタジオに切り替わった。

ナミたちは、呆気に取られたように、しばらく声が出なかった。

「見たか?」
 カネミツに、ナミたち3人は、黙ってコクコクコクと頷く。
「初めにやったのは生放送だったから、首に鉈みたいな脚が食い込んで、血がビュっ! そこでカメラ切り替わったけど」
「私たちが見たのは、虫の様な生物が動いて終わりだった。多分、放送に耐えられるぎりぎりまで流してから編集で切ったのね」
 静かに、冷静にカーラが答える。
「あれは……」
 ナミは携帯から顔を上げ、ぽかん、としていた。

プテリギオンではない、別種の怪生物……。
「今の無修正版は多分、ネットに流れてるかもな」
 それを聞くや、ナミはカネミツの元へ飛ぶように走った。
「タ、タタタ、早く!」
「タブレットね……」
「どこまでもクールね、カーラって」

事件の後、東京の沿岸部には非常警戒警報が発令され、自衛隊及び国連軍がその調査に向かった。
 前回のミイラ騒動と同じく、その日の午後はどのチャンネルも謎の巨大生物についての特集が組まれ、笑いのために命を落とした漫才師の最期を寸前まで見ることができた。

ナミたちも放課後、カネミツに『いい加減返せ、というか自分で買え』と言われるまで、動画サイトに早速投稿された映像を食い入るように見ていた。

いわゆる『無修正版』と呼ばれるものは、ワイドショーの1コーナーで、生放送されたものだった。そこには、謎の生物の前脚が漫才師の首筋に食い込み、ステージをその鮮血で汚すまでを捉えている。
 異変に気付いたカメラマンが慌ててカメラを空に向けると、スタッフらしき人間の怒声が聞こえて、そこでスタジオに切り替わっていた。
 ナミたちが最初に見たのは最後の部分をカットしたものだった。
 動画を見ながら、カーラとナミはその生物の姿をスケッチし、その正体が何であるか、を議論した。

東京のテレビ局周辺は完全に関係者以外シャットダウンされ、軍関係者がひしめく異様な光景が展開されていた。報道の自由を掲げ、残っていたテレビ局員さえも安全のために順次帰宅するように国連軍から指示が出ていた。

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