「でさ……」
 にんまり、とナミが微笑む。
 ナミがそういう顔をするときは、何かを企んでいるときだ。今まで何度か見たが、そのたびに突飛なことを言い出す。レイクがそっと後退りする前に、ハルミがその2、3歩後ろに下がっていた。
「大丈夫、変な話じゃないから。カーラ、この間、漁協のタッちゃんの漁船を直したって?」
「ええ。エンジン部分に小さな損傷があって異音がしたのよ」
「そのギャラを今朝受け取ってね。それで……」
 ナミはぱっと飛び跳ね、カーラたちに『おいで』と手招きした。

 一体どこへ連れて行くのか? カーラ、ハルミ、レイクが怪訝そうな顔でナミについていく。いつもナミが海を見ている砂浜から、さらに歩くこと10分ほど。入り江のような岩場が見えてきた。
「へえ、こんなところがあったのね……」
「ナミさん、潮の満ち引きが激しいから、ここは遊んじゃいけない場所だって……」
「へえ、私も知らなかった。こんなデンジャーな場所」
「町の人もあまり来ないからね。で、じゃじゃん!」
 と、ナミが指差した先は入り江の脇にある小さな洞窟だった。
「あんなところに洞窟が?」
「なんだか、悪い予感しかしないわ、エスケープしていいかな?」
「ダメよ、さあ、来て」
 足取り軽く、ナミが洞窟へ入っていく。

「ここは私が見つけた秘密の隠れ場所」
 さっとナミが懐中電灯をつける。入り口付近はごつごつとした岩が並んでいるが、中に入ると、まるで人工物のように壁面がつるんとしている。
「へえ……こんな風になっていたんだ」
「まるで避難壕みたいね」
「ずいぶん昔の戦争の時作った洞穴って聞いたことあるわ。だから秘密といっても町の人は結構知ってるのよ」
「で、ここで何をするの? カーラのウェルカム歓迎会?」
「それがね……」
 ナミは、さっと明かりを洞窟の奥へと向ける。
「え?」
「ホワット?」
「ひっ」
 明かりに照らされ、巨大な影が浮かび上がった。その巨体にハルミが思わず身をすくめる。
 それは、まるで四角い物体の上にお椀を逆さまに乗せたような……。
「戦車? それも日本の陸上自衛隊で使用された61式戦車じゃない? 戦後第一次世代といわれた陸上自衛隊初の国産戦車じゃないの!」
 カーラの目がキランと輝き、いつになく饒舌になる。
「ロクヒト式戦車? シックスマン? よくシルエットだけで分かるのね」
「いや多分『ロクヒト』は数字の61のことだと思いますよ。自衛隊などでは時間を表す時に『1』と書いて『ヒト』と読ませるそうです。例えば『12時ちょうど』なら『ヒトフタマルマル』と読んだりするそうですよ。でもこの場合『ロクイチ』かと……」
「ややこしいのね……」
 と、レイクが首をひねる。
「そう。実際には『ロクイチ』と読むそうだけど、『ロクヒト』の方が語感がよくない? それにこのフォルムがいかにも『ロクヒト』って感じがしない? そもそも『10式』は『ヒトマルシキ』なのに61式は『ロクイチシキ』って読むのはおかしくない? これだから日本語ってややこしいのよ、だいたい……」
「わ、わかった、『ロクヒト』でいいから、ロクヒトね」
 興奮気味にまくしたてるカーラを、まあまあとナミがなだめる。
「それにしても……なぜこんなものがここに?」
 少し落ち着いたカーラが呟くように言った。
「いやあ、ここを見つけたときからあったんで……しかし、カーラがこんなに喜ぶとは思わなかった」
「わからないの、この特徴的な砲塔! T字型マズルブレーキ! 2000年に退役するまでに560輌生産されたと聞いたけど、そのうちの1台とこんなところで出会えるなんて」
「パン屋のオバちゃんが前にアレがきたときに配備されたって、そんな事言ってたよ」
 はしゃぐように駆け寄り、カーラがその車体を軽く叩く。装甲が厚いからか、コンカン、と鈍い音が返ってきた。
「なに、あの浮かれよう……?」
「まさか戦車フェチだったとは」
「ロクヒト様、はじめまして!」
 頬ずりでもする勢いで顔を寄せ、そしてくるりくるりと戦車の周りを見てまわり、何かあるたびに声を上げるカーラ……。
「ロクヒト……様?」
 そんなカーラを三人は絶句しながら見ていた。それは今までみたこともないカーラの無邪気な、いや無邪気すぎる姿だった。
「ごめん、カーラ。あとで存分に触っていいから、ちょっといいかな?」
 このままだと、カーラが止まらない、そう思い、ナミが声をかける。
「あ。そ、そうだったわね。あなたから話があるって……ごめんなさい、つい取り乱して」
「かなり取り乱してたけど……で、その戦車なんだけど。これ、動かせないかな?」
 と、ナミが言い終わらないうちに、カーラは懐中電灯を奪うようにして、戦車のあちらこちらを見て周り、その都度叩いたり、触ったりしている。
「行動早……」
「まさかタンククレイジーだったなんて……」
「意外ですよね……」
 三人が見守る中、カーラがハッチを開けて中に入る。

 ドゥルッ。

ウィィイイイーン。

突如響いた轟音に、三人は飛び跳ねるように下がった。
「う、動くの、これ?」
「ナミが『動かせないかな?』ってトークするからじゃないの!」
「まさか、動くなんて……」

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