その夜から、ミサキ町では、夜な夜な街中を走る戦車の姿が目撃された。
 砂浜から現れた戦車は町を抜け、高校の校庭でぐるぐる回ったあと、海へと帰って行くのだった。戦車の走行ルートに民家が少ないことと、近くに軍事基地があり、すっかり慣れているからなのか、誰もそれについては苦情を出すものがいなかった。

そんなある夜のこと。
 校庭を何週か回った後、ナミたちは砲塔の上に腰掛け、夜空を見上げていた。
「ふう、今日もよく走ったな。みんなうまくなったんじゃない、ねえ、カーラ」
「ええ、レイクの操縦が上達したのよ。実戦でない限り、操縦者がいれば戦車は動かすことが可能なんだから」
「あのレバーはベリーヘビーよ」
「『とても重たい』んですね」
「それは場数を踏めば慣れてくるわ。それにしても、こんなクラシックなモデルが動くなんて」
 カーラもどこか満足そうである。
「じゃあ、さ、実戦に使ってみない?」
「は?」
 カーラがひょい、と立ち上がる。
「これも……ロクヒト君だっけ、十分動けるんなら、私たちの部隊を作らない?」
「ナミ、あなた最初からそれが目的だったのね?」
「そっ。『水際防衛隊』なんてどう? アレがやってくるかもしれないし、ロクヒト君を有効活用しないとね」
「へえ、ナミもようやくアレを抹殺する気になったんだ」
「違うわ。あくまでもアレが来たらみんなを避難させて、ロクヒト君を使って町から離すのよ、それだけ。もとより、大砲も機関銃も弾がないし、撃てないじゃん」
「90ミリライフル砲ね」
「カーラさん、相変わらず細かい……」
「でも、そんな事は国連軍に任せるべきよ。私たちがするべきじゃない」
「軍が町をメチャクチャにしてもいいというの?」
「え……。それは……」

カーラは言葉に詰まった。万が一、プテリギオンが上陸した場合、国連軍は総力を挙げてそれに挑むだろう。その際、プテリギオンを倒せたとしても、この町を戦場にする限り、無傷でいられる訳がない。

「そうか、だからあなた、なるべく迷惑のかからないルートでここまで……」
「まあ、そうだね。ね、やろうよみんなで」
「アレの始末については置いといて……町をブレイクさせたくない気持ちは私も一緒」
「『壊されたくない』ですよね。私も自分の家がなくなるのは、いやです」
 レイクとハルミが手を上げる。
「いくら動かせたからといって……素人の寄せ集めでどうにかなるものじゃないわ」
「ロクヒト君、乗り放題なのに?」
「うっ……それを言われると、弱いわ」
「じゃあ決まりね!」
「了解!」
 さっとレイクとハルミが敬礼をして、戦車に入っていった。
「めったなことしないで欲しいわ」

すると、ふぃいいいーん、とエンジンがかかり出した。

「ちょ、私はまだ……」
 カーラが言い終わらぬ間に、三人は戦車に乗り込む。
「じゃあ、基地に帰還するよ、レイク!」
「アイアイ、キャプテン!」

 ぅぃいいいいいーん、ふぉおおおおーん。

カーラを砲塔に乗せたまま、戦車が走り出した。

「ちょっと! まだ乗ってないわよ。……『水際防衛隊』か。センスのかけらもない名前だけど」
 うっとりとした表情のカーラを乗せた戦車――ロクヒト君――は、基地である洞窟へと向かって夜の町を走っていった。

暗い海の上をゆっくりと巨大な鳥が飛んでいる。
 厚木基地を発った海上自衛隊の最新鋭哨戒機P‐1だ。
「ん……これは?」
 機上対潜員が、投下したソノブイ(空中投下音響探知機)からの情報を集めている最中、おかしなものを発見した。
「おい、これ……」
 それは、潜水艦のようにもクジラのようにも見えた。
 しかし、大きさ、形が違いすぎる。
「この真下にいるというのか……いや、まさか」
 データは戦術航空士にわたると、早速それの分析を執り行った。
「どうします、爆雷でもお見舞いしてみますか」
「いや待て、勝手に動くわけには行かない。お前の気持ちは分かるが、まず司令部に連絡をしないとな」
 機内に緊張が走り、戦術航空士の額にじわり、と汗が浮かぶ。認めたくはないが、ソノブイからのデータは確実にアレを指し示している。しかし、ここで自分が慌てるわけには行かない。
「慌てるな、俺たちが慌ててもどうにもならん。まずは的確な情報を伝えることだ。それに、奴もここまでは追ってこんさ」
 戦術航空士がそう言うと、乗員たちは少し表情を崩した。
「目標補足、水深約300メートルを西南西の方角に向けて移動。このまま追尾します」
 静かに司令部にそう伝えると、通信士に次の指示を出した。
「見失うなよ……」

報告を受けた厚木基地ではすぐさま、陸、空の自衛隊ならびに国連軍基地にその旨を伝えた。

そしてミサキ町の国連軍基地は、にわかに慌ただしくなっていた。
「各国すでに第一種戦闘配備に就いております」
「ガセ、ということはないな」
「その可能性は低いです」
「分かってるさ」
 ヒューゴの報告を受けつつ、チャールズは寝酒用に取っていたカップ酒を一気に飲み干した。
「しかも報告ですと、その姿が確認されたのはここより4000メートル先の近海」
「知ってる。こちらも海と空から追いかけるぞ」
「すでに整ってます」
「では、万が一の際の沿岸警備は」
「それもすでに」
「ぶん殴りたくなるぐらいに準備のいい奴だ。よし、いくぞ」
 チャールズは、ふぅ、と息を大きく吐いて、自室を出た。
 いよいよ始まるかもしれない……そう思うと、チャールズの中でどす黒く、得体の知れないものがむくむくと大きくなり、広がっていった。

翌日の新聞は、国連軍がついに動いたこと、それにプテリギオンがレーダーに補足された事を大々的に報じていた。
 そして、その記事の近くに小さく、港に車を止めてロマンチックな雰囲気にあったカップルが、ミイラのような姿で発見されたことも報じられていた。

----つづく----

プテリギオン以外の敵?ついに奴らが上陸を始める。
 ついに始まる実戦!迎え撃つ国連軍!
 その時、ナミたちの61式戦車はどうするのか?

「バカと戦車で守ってみる!」

第3話「海辺の戦車、もう一台(前編)」

カーラ :ああ、ロクヒトさまぁ~
 レイク :だめだこりゃ、重症だ
 ナミ   :はーっはっはっは、虫けらなんか蹴散らしてやるわ!
 カーラ :駄目よ、ロクヒト様に傷をつけたら、許さないんだからね!
 ハルミ :わたし、虫はいやですぅ~

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