ミサキ町国連軍基地では直ちに全体会議が執り行われ、各国軍の代表が集まることになった。

デスクワークはもちろん、会議というものがまるで苦手なチャールズは、補佐役のヒューゴを伴い、アメリカ代表として、居心地の悪い、硬い椅子の上に座ることになった。

『我々は、あの怪生物をその容姿からジャシール、つまりジャイアント・シールース、巨大フナムシという意味ですが、そのように呼称したいと思います。いささか安易とは思いますが、いずれ固有名詞が必要と判断した上での措置であります』

きちんと髪型を整えた、目の小さく、顔色の悪そうな男が、文章を読み上げる。
 巨大モニターには日本の首脳陣が映り、写真つきで怪生物の名前からその特徴までを報告している。それと今までのミイラ事件の犯人はジャシールであることが、その場で明言された。

『12年前と同じ状況が、今度はあの巨大なムシ――ジャシール――によって引き起こされようとしています。その出現理由は全く不明。で、ありますが、これを』

と、モニターが、日本地図に切り替わる。その近海には赤い印、沿岸部には青い印がマークされている。

『ジャシールの目撃及び出現場所は、いずれも哨戒機によってプテリギオンが捕捉された地点から近く、無関係とも言いがたい両者の間における因果性を調べております』

「ほう、まさにバケモノにたかる寄生虫のようですな」
 会議に少し飽きてきたチャールズが、わざと大きい声を上げる。

『そのように、我々も考えております。ジャシールがプテリギオンの寄生生物という可能性は全くないとも限りません』

「そ、そうでありましたか!」
 モニター越しに返事がきたので、チャールズは驚くように、隣のヒューゴを見た。
「おい、返事したぞ」
「そりゃ、リアルタイムで中継されてますから」
 ヒューゴは慌てるチャールズの姿に、少しだけ、クスリとした。
「もういいから、早く終わってくれないか? 会議で奴が殺せるわけないだろうが」
「もう少しの辛抱ですよ」

『……もしこの仮説が正しいのであれば、ジャシールを辿ることにより、プテリギオンの早期発見に繋がるものと、我々は信じております』

「で、さっきから喋ってるあの陰気臭い男は誰だ。外務大臣か?」
「総理大臣ですよ、日本の」

会議終了後、飛び出すように部屋を出たチャールズは作戦本部に戻り、地図を広げながら、ジャシール対策について各部門と打ち合わせをはじめた。
「くそ、あのデカブツ一頭でも捕まらないのに、今度はムシケラの相手もしないといけないとはな! で、奴は今どこにいるんだ?」
 と、実に絶妙なタイミングで通信士が航空写真を持って作戦司令部に入ってきた。
「将軍、Pらしき影を捉えたとの報告が」
「P?」
「Pはプテリギオンの略称です。ジャシールはJ」
 側にいたヒューゴがそっと耳打ちする。
 航空写真を見たチャールズの顔色がさっと変わり、まるで鬼のような形相になると、一点を指差す。
「これは、神の子島じゃないのか……あの動画が撮られた場所の近く……ヤツめ、戻ってきたんだな。……よし、島に前線基地を置くように伝えろ。いいか、海は奴のプールじゃない、ここで引き止め一気に叩くぞ!」
 ダン、とチャールズが机を拳で叩いた。
「どうやって引き止めます?」
「エサを撒け、チーズバーガーでも、チキンでもばら撒け! いや、その辺はソニアに聞いてくる」
 チャールズはそう言いながら、部屋を勢いよく出た。

 その頃、ナミたちは昼間は燃料費を稼ぐためにバイト――といってもパン屋の店番とカキ氷作りぐらい、そしてカーラは修理屋――をし、夕暮れ時になると洞窟に集まっては『水際防衛隊』の活動に勤しんでいた。
 とはいえやることは61式戦車――ロクヒト君――の操縦練習ぐらいだった。

「おぅ、これから戦車かい、これ持っていきな。キンキンに冷えたジュース」
「あ、ありがとう、じゃあ、頑張ってくるね!」
 ナミは洞窟に向かう途中、町の人からそんな声を掛けられ、時には差し入れをもらったりもした。
 戦車が町に存在し、それが夜走っている……初めは奇異に思っていた住民たちもいつしか、そんな事を当たり前のように受け止めていた。

そして、陽がすっかり暮れると、町が、カタカタとかすかに震えだす。

フィィイイイーン、ウィイイイイイイン、キュルキュルキュルキュル……。

町のメインストリート、といっても寂れた商店街を、履帯を唸らせながらロクヒト君が進む。
「もう少し右に寄せて、ダメ寄せすぎ、それじゃあロクヒト君に傷がつくわ!」
 砲手であるカーラが、操縦士レイクに声をかける。
「ノー! ベリーストレートに進んでるわよ!」
「『すごく真っ直ぐ』ってことですね。車体が傷つくよりも民家が壊れてしまうと思いますけど」
 通信手であるハルミが突っ込みを入れた。
「カーラ、そういうのは車長である私の役目でしょ?」
 体操服に鉢巻のナミが、前方のカーラに声を掛ける。
「いいえ。こういった繊細な部分は素人のあなたには任せられないわ。ただでさえ地響き上げて走ってるのに、ご近所に迷惑を掛けるのはどうかと思うわ」
「走ってる段階で迷惑だと思いますけど……」
 ハルミが顔を上げる。
「いよっし、ここでライトに右折!」
 レイクが、グン、とレバーをひく。
 商店街の外れを、ぎりぎりのタイミングで曲がると後は学校まで一直線だった。
 仕上げは校庭で何週か走り、反省会をして解散という流れになっていた。が、相変わらずプテリギオンを保護するか抹殺するかの議論で終わってしまう。

 当初は迷惑がかからないように夜を待っての活動だったが、町の人から注目されてからは、日暮前から活動するようになっていた。

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