「なんだかすっかり有名になったみたいね」
 その日の練習を終え、いつものように砲塔に腰掛けながら、カーラが言った。
「ネットにも動画アップされてるらしいわよ……といってもカネミツがやってるんだけど。幾らかギャラをもらわないとね」
「ちょっとした町おこしになるかもしれませんね」
「まあ、プテリギオン騒動が終わるまでは無理でしょうね」
 冷ややかな口調でカーラがハルミを見る。
「で、ですよね」
「あー、もう、ドライブ代わらない? 結構大変なのよ」
 すっかりぬるくなった差し入れのジュースを飲み干し、レイクが不満げにナミたちを見た。
「だってお父さんがヘリパイロットだから任せとけって言ったの、あんたじゃない」
「ヘリとタンクじゃドライビング方法が違うわよ!」
「まあ、それは、各自順番に覚えていってもいいんじゃないの? ロクヒト君には、砲弾も機銃もないわけだし。レイクにとっても負担が大きいわ」
「サンキューよ、カーラ。フレンド思いね」
「フレンドだなんて……そんな」
 少し照れたようなカーラを、ナミとハルミは少し驚いたように、そして嬉しそうに見ていた。
 はじめは距離を置いて、よそよそしい感じだったのが、今ではすっかり仲がよくなっていたからだ。

「じゃあ、帰ろっか」
 ナミ車長の軽い一声に、各自が持ち場に着いた。
「じゃあ、今日はストレンジなルートでいこうか!」
「へ?」
 ロクヒト君は、いつもの砂浜へと向かうルートとは逆の国道方面へと進みだした。
「レイク、道が違うじゃない!」
「こ、国道は危ないですよ、先日みたいに改造車の人たちを怖がらせるかもしれませんし」
 メガネをカタカタ揺らすハルミの声を無視し、ロクヒト君は国道へと向かった。
「先日とは違うルートを見つけたの!」
 ガクン、と車体の前方が浮き上がった。
「この坂を登れば、メインストリートを抜けずに国道経由で基地に戻れるの」
「なるほど。って、ちょ、ちょっと待ってちょっと!」
 カーラが取り乱したように声を上げる。
「どうしたのよ、いったい。たまにはレイクの言うように、コースを変えるのも悪くないと思うけど」
「そ、そうじゃないの、そうじゃなくって!」
 坂道を登ると、ほんの少し国道を進み、今度は下り坂に差し掛かった。
「ここを抜ければ基地までストレートよ!」
「く、下り坂。ちょっと待ちなさいレイク!」
「よーし、坂をダウンするわよー」
「『坂を下る』んですね、分かります」
 ぶぅうういい、とディーゼルエンジンが音を立て、ロクヒト君は坂に差し掛かり、一旦停止した。
「こういう時はエンジンブレーキってカーラ言ったわよね。ギア、入れ替えるよ」
「言ったわ、言ったけど……」
「カーラ、声が震えてるわよ、どうしたのよ」
 レイクがガシ、ガシとギアチェンジする。
「く……結構ヘビーじゃない、これ?」
「だ、大丈夫ですか、レイクさん?」
「あーあ……」
 カーラはこれから何が起こるのかを知っているように、諦めた表情になっていた。
「ん……レバーが?」
「レイク、レバーがどうかしたの?」
「ちぇ、チェンジしない、ギアが……」
 と、その時、車体がガクン、と揺れた。
「ひゃ!」
「レイク、何やってるの? 早くギアチェンジ」
「できないのよ……チェンジ」
「ギアが動かない? そんな……」
「ふう、思ったとおりね」
 カーラは観念したように、そっと目を閉じた。

ガ、ガガガガ、ズ、ズズズズズ……。

ロクヒト君が、履帯をきしませながら勢いよく、坂道を滑り出した。

「ひゃ、ひゃやく、レイク!」
「『早く、レイク』って言ったんですよね、ナミさん。うひゃああ! 舌噛みそうです!」
 制御できない車内で、ナミたちの体が前のめりにつんのめる。
「ぶ、ブレーキ!」
「掛けてるよ、マックスで、でもきかない!」
 レイクはガシガシとレバーを触るも、思うように動かない。
「し、ししししし、舌を噛みそうですぅ」
 ハルミの小さな体が上下にガクガクと揺れる。

ズズズ、ズズズズ、ガリガリ……。

そんな車内のパニックなどお構いなしに、ロクヒト君はずるずると滑っていく。
「まさか、燃料切れ?」
「違うわ」
 カーラは冷静に、それでも額にうっすら汗を浮かばせ、ナミに答えた。
「と、止まって止まって、やめてとめてやめてとめて」
 ハルミがガクガクしながら叫ぶ。
「ク、クラッチ、クラッチが!」
 レイクがうんとレバーを引くが、思い切り弾かれる。
「アウチぃ! 何で、言うこと聞かないの、このオールドモデル!」
「ま、曲がって曲がって……止まらないんなら曲がりなさい! カーラ、なんとかしてよ!」
「……無理ね。手遅れ」
 あくまでも冷静に、カーラが答える。

坂道を下りきり、ロクヒト君は真っ直ぐ、草むらを抜けていく。
「ソーリー、モンスターボードが!」
「ボ、『防獣壁』ですか? じゃあ……」
 その行く手には防獣壁がそびえている。本来なら、そこを迂回し砂浜に出るのだが。
「もう、カーブに曲がらないよ!」
 レイクがお手上げだ、と両手を上げた。
「うわわわーーーーー!」
 カーラを除いた三人が一斉に悲鳴を上げ、そして。

が、がっしゅううん!

車内が衝撃で大きく揺れる。
 ロクヒト君は防獣壁に激突し、大穴を開けて、停止したのだ。

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